2007年4月27日(金)〜5月8日(火)、長野県松本市でmorgenrotの個展が開催されます。 版画の販売も行いますので、お近くにお越しの際はぜひお立ち寄り下さい。 <5月末日 追記> おかげさまで、個展は無事に終了しました。 |
これまで昇った山はそれほど多くはない。 その少ない山の中でも北穂高岳は最も心に焼きついている山のひとつである。 それまでは、ただひたすら野を歩き、高い山に登り、シュラフに潜り込む・・・というのが、山との接し方だった。それがこの山から「登山」に変わり、それが喜びとなって、ついでに北アルプスにのめり込んでしまうことになる。 北穂高岳への道は楽なものではなかった。 涸沢から雨と雪。 下から突き上げる雷はまるで地雷のようだ。 アイゼンもつけずにトラバースする雪の斜面は滑る。 しかし、その一歩一歩が、山を近しいものにしていく。 南峰にたどり着くと滝谷からガスとみぞれが吹き上げていた。 狭い頂上、垂直に切れ込んだ岸壁、流れるガスの合間にのぞく鋭峰たち。すべてが荒々しく魅力的だった。 |
崖っぷちに建つ北穂高小屋は天井が低く傾斜していて、濡れたズボンを履き替えるとき、思い切り天井に頭をぶつけた。けれど、それも楽しかった。 下ではストーブが赤々と燃えている。 その前で飲むトリスの水割りは限りなく美味しく、酔いは心地よかった。 滝谷を攀じてきたらしい興奮した会話が、バッハのフーガの合間に切れ切れに聞こえていたが、それも次第に遠ざかっていった。 |
8月も末になると、涸沢はめっきり人影が少なくなる。 夏の間カールを埋めつくした色とりどりのテントも、もはやポツンポツンと残っているだけだ。 もとの自然な姿を取り戻したことは喜ばしいのだけれど、2ヶ月前、カールからザイテングラードに続いていたお花畑はもう終わりを迎えていた。 そんな中、数株のクルマユリがすっくと立っているのが目に入った。 大柄なこの花は、どの登山道でもよく目立つ。 花弁の色は派手で、茶色い斑点はソバカスのようにも見える。 他の花々に比べて花期は長く、7月にはもう咲いているし、こうして山に秋風がふき始めてもまだ咲いている。 高山植物から連想する"可憐さ"にはほど遠い花だ。 |
そうしたことを恥じるかのように、伸ばした首を曲げうつむいているクルマユリに、「恥ずかしがることはない」と、声をかけてあげたい気分になった。なぜなら前穂高岳を背にして咲く姿は凛々しく、この花もまた、お花畑の主役のひとりには間違いないのだから。 |